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社宅・食事の現物支給は平均賃金に含む?福利厚生との違いを解説

社宅と食事の現物給与を金銭と天秤にかけ、平均賃金への算入を確認する会社担当者のイラスト

「従業員に社宅を無償で貸したい」

 

「食事を現物で提供して、福利厚生を充実させたい」

 

このような制度を導入するとき、会社が確認しておきたいのが、住宅や食事の提供を平均賃金の計算に含める必要があるかどうかです。

 

結論からいうと、現物で支給しているからといって、すべてが平均賃金から除外されるわけではありません。

 

次の順番で判断する必要があります。

 

  • 住宅や食事の提供が「賃金」に該当するか
  • 賃金に該当する場合、労働協約に基づく現物給与か
  • 平均賃金へ算入する現物給与に該当するか
  • 現物給与の評価額をどのように定めるか

 

判断を誤ると、解雇予告手当や休業手当などの金額にも影響します。

 

今回は、住宅や食事などを現物で支給する場合の平均賃金の考え方を、わかりやすく解説します。


そもそも平均賃金とは

平均賃金とは、給与の平均的な相場ではありません。

 

労働基準法に基づき、原則として次の計算式によって求める1日当たりの賃金額です。

 

平均賃金=算定事由発生日以前3か月間の賃金総額÷その期間の総日数

 

賃金締切日がある場合は、原則として直前の賃金締切日から3か月間をさかのぼります。

 

平均賃金は、主に次の場面で使用します。

 

  • 解雇予告手当
  • 使用者の都合による休業手当
  • 年次有給休暇中の賃金として平均賃金を採用する場合
  • 業務災害に関する災害補償
  • 減給の制裁における限度額

 

平均賃金は労働者の生活保障に直結するため、会社が任意の方法で計算することはできません。


平均賃金に算入しない3種類の賃金

労働基準法第12条第4項では、平均賃金の賃金総額に算入しないものとして、次の3種類を定めています。

 

  • 臨時に支払われた賃金
  • 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 通貨以外のもので支払われた賃金で、一定の範囲に属しないもの

 

3つ目の規定だけを見ると、「現物給与は平均賃金から除外できる」と考えてしまうかもしれません。

 

しかし、法律が除外しているのは「一定の範囲に属しない現物給与」です。

 

現物給与のすべてを一律に除外する規定ではありません。


最初に「賃金」か「福利厚生」かを判断する

労働基準法第11条では、賃金を「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定めています。

 

名称が「福利厚生費」「食事補助」「社宅制度」となっていても、実態が労働の対償であれば、賃金に該当する可能性があります。

 

住宅や食事の提供について、賃金に該当する可能性があるのは、例えば次のような場合です。

 

  • 現金給与の一部に代えて住宅や食事を提供している
  • 住宅や食事を提供する代わりに、現金給与を減額している
  • 労働契約で現金給与とは別に提供することを約束している
  • 支給対象者や支給条件が明確に定められている
  • 一定の条件を満たした場合、会社に支給義務がある

 

一方、次のような場合は、福利厚生施設や任意的な給付として、賃金に該当しない可能性があります。

 

  • 会社が任意的・恩恵的に提供している
  • 労働者から相当額の利用料を徴収している
  • 業務遂行上の必要から提供している
  • 労働の対償として提供しているものではない

 

ただし、制度の名称だけでは判断できません。

 

労働契約、就業規則、利用規程、労働者の負担額、現金給与との関係などを確認し、実態に基づいて判断する必要があります。


労働協約に基づく現物給与は平均賃金に算入する

賃金は、通貨で支払うことが原則です。

 

労働基準法第24条第1項では、法令または労働協約に別段の定めがある場合などに限り、通貨以外のもので賃金を支払うことを認めています。

 

労働基準法施行規則第2条では、平均賃金の賃金総額へ算入する現物給与を、法令または労働協約の定めに基づいて支払われるものとしています。

 

したがって、取扱いは次のように整理できます。

1. 現金で住宅手当や食事手当を支給する場合

住宅手当や食事手当を現金で支給し、労働の対償に該当する場合は、原則として平均賃金の賃金総額に算入します。

「住宅に関する手当だから」「福利厚生の名称だから」という理由だけでは除外できません。

2. 労働協約に基づき住宅や食事を現物支給する場合

労働協約に基づいて現物給与として支給する場合は、その評価額を平均賃金の賃金総額に算入します。

労働協約には、現物給与の評価額も定めておく必要があります。

3. 労働協約に基づかない現物給与の場合

法令または労働協約に基づかない現物給与は、平均賃金の賃金総額から除外されます。

ただし、これは「会社が自由に現金給与を現物給与へ変更してよい」という意味ではありません。

賃金として住宅や食事を現物支給すること自体が、労働基準法第24条の通貨払の原則に抵触する可能性があります。

現物給与へ変更することで、平均賃金や各種手当を低くするような制度設計は避けなければなりません。


「労働協約」は一般的な労使協定ではない

ここで注意したいのが、労働協約の意味です。

 

労働協約は、労働組合と使用者との間で締結するものです。

 

次のものは、原則として現物給与を認めるための労働協約には該当しません。

 

  • 労働者の過半数代表者との労使協定
  • 36協定
  • 就業規則だけの定め
  • 個別の労働契約
  • 労働者本人の個別同意

 

また、労働協約により現物給与が認められるのは、原則としてその労働協約の適用を受ける労働者です。

 

厚生労働省の現行案内では、法令によって現物支給を認める別段の定めは、現在ないと説明されています。

 

労働組合のない会社では、現物を賃金の一部として支払う制度ではなく、現金給与と区別した福利厚生制度として設計できるかを検討する必要があります。


現物給与の評価額はどのように決めるのか

労働協約に基づいて現物給与を支給する場合は、その物や利益を通貨に換算しなければなりません。

 

労働基準法施行規則第2条では、原則として現物給与の評価額を労働協約に定めることとしています。

 

次の場合には、都道府県労働局長が評価額を定めることがあります。

 

労働協約に定めた評価額が不適当な場合

法令や労働協約に評価額が定められていない場合

 

会社が根拠なく評価額を設定し、平均賃金へ算入することは適切ではありません。


無協約の現物給与が大部分を占める場合は要注意

労働協約に基づかない現物給与が賃金の大部分を占めている場合、通常の計算方法では平均賃金が不当に低くなることがあります。

 

このような場合は、労働基準法第12条第8項に基づく特別な平均賃金の算定が必要となる可能性があります。

 

会社だけで計算方法を決めるのではなく、次の資料を整理したうえで、所轄労働基準監督署または社会保険労務士へ確認することが必要です。

 

  • 労働契約書
  • 就業規則・賃金規程
  • 労働協約
  • 社宅・食事等の利用規程
  • 給与明細書
  • 賃金台帳
  • 現物給与の評価根拠
  • 労働者が負担している利用料

社会保険の「現物給与価額」とは別に考える

健康保険・厚生年金保険では、住宅や食事を現物で支給する場合、厚生労働大臣が定める現物給与価額を使用して標準報酬月額を計算します。

 

しかし、この現物給与価額を、そのまま労働基準法上の平均賃金の評価額に使用できるとは限りません。

 

次の制度は、それぞれ根拠法令と判断基準が異なります。

 

  • 労働基準法上の賃金・平均賃金
  • 労働保険料の算定基礎となる賃金
  • 健康保険・厚生年金保険の報酬
  • 所得税法上の給与所得

 

「社会保険では現物給与に含めたから、平均賃金でも同じ」とは限らないため、制度ごとの確認が必要です。


現物給与や福利厚生を導入する前のチェックリスト

住宅や食事の提供制度を導入するときは、少なくとも次の事項を確認しましょう。

 

  • 住宅や食事を提供する目的は何か
  • 現金給与の一部に代えて支給するものか
  • 現金給与の減額を伴うか
  • 労働契約や就業規則で支給を約束するか
  • 会社に支給義務が生じる制度か
  • 労働組合と締結した労働協約があるか
  • 現物給与の評価額をどのように定めるか
  • 平均賃金へ算入する必要があるか
  • 賃金台帳や給与明細へどのように記録するか
  • 社会保険、労働保険、所得税の取扱いを確認したか

 

制度を開始した後に誤りが判明すると、過去の休業手当や解雇予告手当などを再計算しなければならない可能性があります。

 

導入前に制度全体を確認することが重要です。


よくある質問(Q&A)

Q1.社宅を無償で貸している場合は、必ず平均賃金から除外できますか?

A.必ず除外できるとは限りません。

社宅の貸与が労働の対償となっているか、福利厚生施設として提供されているか、労働協約に基づく現物給与かなどを確認する必要があります。

Q2.就業規則に現物支給を定めれば、現物給与として支払えますか?

A.就業規則だけでは、労働基準法第24条における労働協約には該当しません。

 

就業規則の定めは賃金性を判断する材料にはなりますが、通貨払の原則に対する例外を認める労働協約の代わりにはなりません。

Q3.現金で支給する住宅手当は平均賃金に含まれますか?

A.労働の対償として支給する住宅手当は、原則として平均賃金の賃金総額に含まれます。

 

名称が「福利厚生手当」であっても、実態に基づいて判断します。

Q4.従業員から社宅の家賃や食事代を徴収していれば、賃金にはなりませんか?

A.利用料を徴収しているだけでは断定できません。

 

会社の負担額、従業員の負担額、一般的な価格との差、現金給与との関係、制度の目的などを確認する必要があります。

Q5.労働組合のない会社でも、本人が同意すれば賃金を現物支給できますか?

A.本人の個別同意だけでは、労働協約に基づく現物支給にはなりません。

 

労働組合のない会社では、賃金の代わりとして支給するのではなく、現金給与と区別した福利厚生制度として設計できるかを検討する必要があります。

Q6.社会保険の現物給与価額を平均賃金の計算にも使えますか?

A.そのまま使用できるとは限りません。

 

社会保険と労働基準法上の平均賃金では、根拠法令と評価方法が異なります。個別の制度内容を確認したうえで判断します。


まとめ

住宅や食事などの現物支給は、すべてが平均賃金から除外されるわけではありません。

 

実務では、次の順番で整理することが重要です。

 

  • 住宅や食事の提供が労働の対償となる賃金か
  • 単なる福利厚生施設や任意的給付か
  • 労働協約に基づく現物給与か
  • 現物給与の評価額が適切に定められているか
  • 平均賃金が不当に低くならないか

 

特に、「就業規則に書けばよい」「本人が同意すればよい」「社会保険の現物給与価額を使えばよい」という判断には注意が必要です。

 

社宅や食事補助制度を新しく導入する場合は、就業規則だけでなく、労働契約、賃金規程、利用規程、給与計算、社会保険の取扱いまで一体として確認する必要があります。

 

社会保険労務士森事務所では、社宅・食事補助などの福利厚生制度の設計、賃金規程の整備、平均賃金の計算についてご相談を承っています。

 

制度を開始する前に、専門家へご相談ください。


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