新卒で入社した従業員が、ゴールデンウィークなどの連休中に私生活上のケガをして、しばらく会社を休むことがあります。
このような場合、会社側からよく相談されるのが、次のような点です。
- 入社して間もない新卒でも傷病手当金を受けられるのか
- 連休中のケガでも対象になるのか
- 「直近12か月の標準報酬月額の平均」はどう計算するのか
- 入社して12か月経っていない場合はどう扱うのか
- 会社は何を確認すればよいのか
結論からいうと、業務外のケガで、健康保険の要件を満たす場合には、新卒で入社直後の従業員でも傷病手当金の対象となる可能性があります。
ただし、実務上は、労災保険の対象か、健康保険の傷病手当金の対象かを最初に確認することが重要です。
傷病手当金とは
傷病手当金とは、健康保険の被保険者が、病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬を受けられない場合に支給される制度です。協会けんぽでは、傷病手当金は「病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するため」の制度と説明されています。
対象となるのは、主に次のようなケースです。
- 業務外の病気やケガであること
- 療養のため、仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間の待期が完成し、4日目以降も仕事に就けない日があること
- 休業期間について給与の支払いがない、または傷病手当金より少ないこと
反対に、業務中のケガや通勤中の事故であれば、健康保険の傷病手当金ではなく、原則として労災保険の対象になります。協会けんぽでも、業務上・通勤災害によるものは労災保険の給付対象となり、傷病手当金の対象外とされています。
連休中のケガでも対象になるのか
連休中に、旅行先や自宅などで私生活上のケガをした場合、通常は業務外のケガとして考えます。
そのため、次の要件を満たせば、傷病手当金の対象となる可能性があります。
- 医師が労務不能と判断している
- 連続する3日間の待期が完成し、4日目以降も労務不能の日がある
- 休業期間について給与が支払われていない、または少ない
- 健康保険の被保険者である
ここで重要なのが、待期3日間です。
傷病手当金は、仕事に就けない日が連続して3日間続いた後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。協会けんぽでは、この待期には、有給休暇、土日・祝日などの公休日も含まれると説明されています。
つまり、連休中であっても、医師の証明上、仕事に就けない状態であった期間であれば、待期期間に含まれる可能性があります。
新卒で入社直後の場合、12か月平均はどう計算するのか
傷病手当金の1日あたりの支給額は、原則として次の計算式で算定します。
標準報酬月額の平均額 ÷ 30 × 2/3
ここでいう標準報酬月額の平均額は、原則として支給開始日の属する月以前の直近の継続した12か月間の各月の標準報酬月額の平均額です。
ただし、新卒で入社したばかりの場合、当然ながらその会社での被保険者期間が12か月ありません。
この場合は、支給開始日以前の期間が12か月に満たないため、次のいずれか低い額を使って計算します。
- 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 当該年度の前年度9月30日時点における全被保険者の標準報酬月額の平均額
協会けんぽでは、支給開始日が2025/04/01以降の方について、この平均額を32万円と案内しています。
計算例:新卒の標準報酬月額が22万円の場合
例えば、次のようなケースで考えます。
- 2026/04/01に新卒入社
- 2026/05の連休中に私生活上のケガ
- 医師の証明により、しばらく労務不能
- 標準報酬月額は22万円
- 協会けんぽ加入を前提
この場合、被保険者期間は12か月に満たないため、次の低い方を使います。
| 比較する額 | 金額 |
| 本人の標準報酬月額の平均 | 220,000円 |
| 協会けんぽの平均額 | 320,000円 |
| 計算に使う額 | 220,000円 |
計算は次のとおりです。
- 220,000円 ÷ 30 = 7,333.33円
- 10円未満を四捨五入 → 7,330円
- 7,330円 × 2/3 = 4,886.66円
- 1円未満を四捨五入 → 4,887円
この例では、傷病手当金の日額は4,887円となります。
協会けんぽの計算例でも、標準報酬月額の平均額を30で割る際は10円未満四捨五入、その後2/3を乗じた額について1円未満四捨五入する形で示されています。
標準報酬月額が32万円を超える新卒の場合
新卒でも、専門職や一定の高額給与の場合、標準報酬月額が32万円を超えることがあります。
この場合、協会けんぽを前提にすると、支給開始日が2025/04/01以降であれば、比較対象となる平均額は32万円です。本人の標準報酬月額の平均が32万円を超える場合は、低い方である32万円を使って計算することになります。
例えば、本人の標準報酬月額が36万円の場合でも、比較の結果、32万円を基礎に計算します。
- 320,000円 ÷ 30 = 10,666.66円
- 10円未満を四捨五入 → 10,670円
- 10,670円 × 2/3 = 7,113.33円
- 1円未満を四捨五入 → 7,113円
この例では、傷病手当金の日額は7,113円となります。
給与が支払われる場合は注意が必要
傷病手当金は、休業期間中の生活保障を目的とした制度です。
そのため、休業期間について給与が支払われている場合、原則として傷病手当金は支給されません。
ただし、支払われた給与が傷病手当金の額より少ない場合には、その差額が支給されます。
会社側では、次の点を確認する必要があります。
- 欠勤控除を行うのか
- 有給休暇を使用するのか
- 休職扱いにするのか
- 一部給与を支払うのか
- 通勤手当や固定手当をどう扱うのか
- 就業規則・賃金規程に沿った処理になっているか
特に新卒の場合、入社から6か月経過しておらず、法律上の年次有給休暇がまだ発生していないことも多いため、会社独自の特別休暇や前倒し付与の有無も確認が必要です。
会社が確認すべき実務ポイント
新卒従業員が連休中にケガをして傷病手当金の申請を希望する場合、会社側では次の順番で確認すると整理しやすくなります。
1.労災保険か健康保険かを確認する
まず、ケガの原因を確認します。
- 業務中のケガか
- 通勤途中の事故か
- 私生活上のケガか
業務中や通勤中であれば、傷病手当金ではなく、労災保険の検討が必要です。
2.医師の労務不能証明を確認する
傷病手当金は、単に本人が「痛いので休みたい」と言っているだけでは足りません。
医師が、療養のため仕事に就くことができないと判断しているかが重要です。
3.待期3日間が完成しているか確認する
傷病手当金は、連続する3日間の待期が完成した後、4日目以降が支給対象になります。
連休中の土日・祝日・公休日も待期に含まれる可能性があるため、休業開始日と医師の証明期間を確認します。
4.給与の支払い状況を確認する
休業期間について給与が支払われている場合は、傷病手当金が不支給または差額支給となることがあります。
給与計算と傷病手当金申請は連動するため、勤怠処理と賃金支払状況を正確に整理する必要があります。
5.標準報酬月額を確認する
新卒の場合は、入社時に決定された標準報酬月額を確認します。
傷病手当金は、実際の手取り額や残業代の実績ではなく、健康保険上の標準報酬月額を基礎に計算します。
Q&A
Q1.新卒で入社してすぐでも、傷病手当金は受けられますか?
A.要件を満たせば、受けられる可能性があります。
傷病手当金は、新卒かどうかではなく、健康保険の被保険者であり、業務外の病気やケガで仕事に就けず、給与が十分に支払われないかどうかで判断します。
Q2.連休中のケガでも傷病手当金の対象になりますか?
A.私生活上のケガであれば、対象となる可能性があります。
ただし、業務中や通勤中の事故であれば、原則として労災保険の対象になります。
Q3.入社して12か月経っていない場合、支給額はどう計算しますか?
A.支給開始日以前の継続した各月の標準報酬月額の平均と、保険者の全被保険者の標準報酬月額の平均額を比較し、低い方を使って計算します。
Q4.有給休暇を使った場合でも傷病手当金は出ますか?
A.給与が支払われている期間は、原則として傷病手当金は支給されません。
ただし、支払われた給与が傷病手当金より少ない場合は、差額が支給されることがあります。
Q5.会社は何を証明する必要がありますか?
A.主に、勤務状況と賃金支払状況を証明します。
欠勤日、有給休暇の使用、給与の支払い有無、標準報酬月額などを整理して申請内容と整合させる必要があります。
会社が間違えやすいポイント
会社が間違えやすいのは、連休中の日数の数え方と、給与が支払われる日の取扱いです。
待期3日間には、土日・祝日などの公休日も含まれる可能性があります。
一方で、4日目以降に給与が支払われている場合は、傷病手当金が不支給または差額支給となることがあります。
そのため、単に「何日休んだか」だけでなく、医師の労務不能期間、会社の所定労働日、給与支払いの有無をあわせて確認することが重要です。
まとめ
新卒従業員が連休中にケガをして会社を休む場合でも、業務外のケガであり、健康保険の要件を満たせば、傷病手当金の対象となる可能性があります。
ただし、入社直後の場合は、通常の「直近12か月平均」で単純に計算できません。
被保険者期間が12か月に満たない場合は、
- 本人の支給開始日以前の継続した各月の標準報酬月額の平均
- 保険者の全被保険者の標準報酬月額の平均額
のいずれか低い額を基礎に計算します。
会社側では、労災保険との切り分け、医師の証明、待期3日間、給与支払いの有無、標準報酬月額の確認を丁寧に行うことが大切です。
傷病手当金は、従業員の生活に直結する制度です。
一方で、実務では、労災保険との切り分け、待期3日間の確認、給与計算上の欠勤控除、事業主証明欄の記載など、複数の確認が必要になります。
判断に迷う場合は、申請前に社会保険労務士へ相談し、勤怠・給与・社会保険の取扱いを整理してから進めることをおすすめします。
社会保険労務士森事務所では、傷病手当金の申請に関する相談、事業主証明欄の確認、給与計算上の欠勤控除・有給休暇処理の整理にも対応しています。
従業員が病気やケガで休む場合の社会保険手続きで迷われたときは、お気軽にご相談ください。
