会社の賃金事務を見直す中で、給与の締日・支払日を変更したいという相談があります。
たとえば、次のようなケースです。
・月末締め、翌月10日払いを、20日締め、月末払いに変更したい
・給与支払日が月末だが、月末が土日祝日の場合にどう扱うか決めていない
・現金支給や銀行振込の準備日を考えると、支払日を見直したい
・給与計算ソフトや勤怠システムの導入に合わせて、給与サイクルを整理したい
給与の締日や支払日は、会社が自由に決められる部分もあります。
しかし、変更の仕方を誤ると、労働基準法上の問題や従業員とのトラブルにつながることがあります。
この記事では、給与サイクルを変更するときの注意点と、月末が休日の場合の支払日の決め方について、実務上のポイントを整理します。
給与の支払日には「毎月1回以上・一定期日払い」の原則がある
賃金の支払いについては、労働基準法第24条で、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払う必要があるとされています。
いわゆる賃金支払いの5原則です。
・通貨払い
・直接払い
・全額払い
・毎月1回以上払い
・一定期日払い
給与サイクルを変更する場合でも、この原則を外すことはできません。
特に注意が必要なのは、次の2点です。
・暦月ごとに少なくとも1回、賃金支払日が確保されているか
・支払日が不安定にならないか
たとえば、「会社の都合で今月は支払日を遅らせる」「資金繰りの都合で来月にまとめて支払う」といった運用は、原則として認められません。
給与の締日・支払日は就業規則に記載する事項
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出義務があります。
就業規則には、賃金の決定、計算および支払いの方法、賃金の締切りおよび支払いの時期を記載する必要があります。これは労働基準法第89条に基づく絶対的必要記載事項です。
そのため、給与サイクルを変更する場合は、単に社内で案内するだけでは不十分です。
実務上は、次の確認が必要です。
・就業規則の賃金規定に現在の締日・支払日がどう書かれているか
・雇用契約書、労働条件通知書と矛盾していないか
・従業員への説明をどのように行うか
・変更後の初回給与で支払い間隔が空きすぎないか
・就業規則の変更手続きが必要か
特に、就業規則と実際の運用がずれている会社は注意が必要です。
月末が休日の場合、支払日は「前倒し」か「翌営業日」かを明確にする
給与支払日を「毎月末日」と定めている場合、月末が土曜日、日曜日、祝日、会社の休業日に当たることがあります。
この場合、実務上は次のどちらかを就業規則で明確にしておく必要があります。
・支払日が休日に当たる場合は、その前営業日に支払う
・支払日が休日に当たる場合は、その翌営業日に支払う
どちらの定め方も、制度設計としては考えられます。
ただし、従業員の生活資金への影響を考えると、給与支払日は「前倒し」とする会社が多いです。
特に月末支払いの場合、翌営業日払いにすると、実際の支払いが翌月にずれ込むことがあります。
たとえば、月末が日曜日の場合です。
| 定め方 | 実際の支払日 |
| 前営業日払い | その前の金曜日 |
| 翌営業日払い | 翌月の月曜日 |
支払日が休日に当たる場合については、前営業日に繰り上げる方法と、翌営業日に繰り下げる方法が考えられます。
ただし、どちらにする場合でも、就業規則や賃金規程で明確に定めておくことが重要です。
特に給与支払日を「毎月末日」とする場合は、翌営業日払いにすると実際の支払日が翌月にずれ込むことがあります。
この点については、次の見出しで整理します。
月末払いの場合は「前営業日払い」が実務上安全
給与支払日を「毎月末日」とする場合は、支払日が金融機関の休業日に当たったときの取扱いに特に注意が必要です。
支払日を翌営業日に繰り下げると、実際の入金日が翌月になることがあります。
その結果、暦月によっては、その月に賃金支払日がない状態になる可能性があります。
労働基準法第24条では、賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払う必要があります。
そのため、月末払いを採用する場合は、支払日が休日に当たるときは前営業日に繰り上げて支払う定めにしておく方が、実務上は安全です。
給与サイクル変更で注意すべき「空白期間」
給与サイクルを変更するときに、最も注意すべきなのは変更初月です。
たとえば、次のような変更を考えます。
・変更前:月末締め、翌月10日払い
・変更後:20日締め、月末払い
この場合、単純に変更すると、初回の対象期間や支払額がわかりにくくなります。
実務上は、次のような点を整理する必要があります。
・変更前の最後の給与は、いつまでの勤務分を支払うのか
・変更後の最初の給与は、何日から何日までの勤務分を支払うのか
・一部期間が二重払いまたは未払いにならないか
・固定給、時間外労働手当、欠勤控除、通勤手当をどう処理するか
・社会保険料や雇用保険料の控除月とずれないか
・住民税の控除に影響がないか
特に、日給月給制、時給制、変形労働時間制、シフト制の会社では、勤怠集計期間と給与計算期間の整理が重要です。
給与サイクル変更時の実務チェックリスト
給与サイクルを変更する場合は、少なくとも次の項目を確認します。
1. 現在の規定確認
・就業規則
・賃金規程
・雇用契約書
・労働条件通知書
・給与計算ソフトの設定
・勤怠システムの締日設定
2. 変更後のルール確認
・締日
・支払日
・支払日が休日に当たる場合の取扱い
・初回変更月の対象期間
・不足分や重複分の調整方法
・各種手当の計算方法
・社会保険料、雇用保険料、住民税の控除方法
3. 従業員への説明
・いつから変更するのか
・変更理由
・初回給与の計算期間
・支払日が休日の場合の取扱い
・支払時期の変更により、従業員の生活資金に不安が生じないようにする説明
給与は従業員の生活に直結するため、会社側が「事務処理の都合」と考えていても、従業員にとっては大きな不安につながります。
変更する場合は、早めに説明し、書面や社内通知で残しておくことが望ましいです。
就業規則の条文例
給与支払日が休日に当たる場合の条文例です。
前営業日に支払う場合
賃金は、毎月末日に締め切り、翌月20日に支払う。ただし、支払日が金融機関の休業日に当たる場合は、その前営業日に支払う。
翌営業日に支払う場合
賃金は、毎月末日に締め切り、翌月20日に支払う。ただし、支払日が金融機関の休業日に当たる場合は、その翌営業日に支払う。
月末払いにする場合
賃金は、毎月20日に締め切り、当月末日に支払う。ただし、支払日が金融機関の休業日に当たる場合は、その前営業日に支払う。
実務上は、従業員の生活資金への影響を考えると、「前営業日払い」の方が説明しやすいケースが多いです。
ただし、会社の資金繰り、給与計算日数、銀行振込処理の都合もあるため、自社の運用に合った内容で定める必要があります。
給与サイクル変更は「給与計算の都合」だけで決めない
給与サイクルの変更は、給与計算担当者の負担軽減やシステム導入に合わせて行われることがあります。
しかし、給与サイクルは次の業務にも影響します。
・勤怠集計
・残業代計算
・欠勤控除
・通勤手当
・社会保険料控除
・雇用保険料控除
・住民税控除
・賞与計算
・退職時の精算
・年末調整
・労働保険年度更新
・社会保険算定基礎届
そのため、給与サイクルの変更は、給与計算だけでなく、労務管理全体の見直しとして検討する必要があります。
Q&A
Q. 給与支払日を変更することはできますか?
A. 変更自体は可能です。ただし、労働基準法第24条の「毎月1回以上・一定期日払い」の原則を守る必要があります。また、就業規則や雇用契約書に記載がある場合は、内容の整合性を確認する必要があります。
Q. 月末が休日の場合、給与は前日に支払う必要がありますか?
A. 支払日が休日に当たる場合の取扱いは、就業規則や賃金規程で明確に定めておく必要があります。
ただし、給与支払日を「毎月末日」としている場合は、翌営業日払いにすると支払日が翌月にずれ込む可能性があります。
労働基準法第24条の「毎月1回以上払い」との関係を考えると、月末払いの場合は、前営業日に繰り上げて支払う定めにしておく方が実務上安全です。
Q. 給与支払日を翌営業日にしても問題ありませんか?
A. 支払日が休日に当たる場合に翌営業日払いとする定め自体が、常に認められないわけではありません。
ただし、給与支払日が月末の場合は、翌営業日払いにすると支払日が翌月にずれ込み、その月に賃金支払日がなくなる可能性があります。
そのため、月末払いの場合は、翌営業日払いではなく、前営業日払いとする方が実務上は安全と考えます。
Q. 給与サイクルを変更するとき、就業規則の変更は必要ですか?
A. 就業規則や賃金規程に締日・支払日が記載されている場合は、変更が必要です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の変更手続きと労働基準監督署への届出も確認する必要があります。
まとめ:給与サイクルを変えるときは、就業規則と初回支給月の整理が重要
給与サイクルを変更すること自体は可能です。
ただし、次の点を確認せずに変更すると、未払い、支払遅延、従業員説明不足、就業規則との不整合が生じる可能性があります。
・労働基準法第24条の賃金支払いの原則に合っているか
・就業規則、賃金規程に正しく記載されているか
・月末や支払日が休日の場合の取扱いが明確か
・変更初月に空白期間や二重計算が生じないか
・従業員へ事前に説明できる内容になっているか
特に、給与支払日は従業員の生活に直結するため、会社側の事務都合だけで変更するのは避けるべきです。
給与サイクルの変更を検討している場合は、就業規則、雇用契約書、給与計算の実務をあわせて確認することをおすすめします。
社会保険労務士森事務所では、給与計算の見直し、就業規則の整備、勤怠管理の確認について、実務に即した形でサポートしています。
