ハラスメント対策は「懲戒規定があるから大丈夫」とは限りません
職場のハラスメント対策について、会社からよくあるご相談のひとつに、
・就業規則に懲戒規定はある
・服務規律にも問題行為は禁止している
・ハラスメントをした従業員には処分できるはず
というものがあります。
たしかに、ハラスメント行為に対して、会社が厳正に対応できる体制を整えることは重要です。
しかし、実務上は、懲戒規定があるだけでは、ハラスメント防止措置として十分とはいえない場合があります。
職場のハラスメント対策では、会社の方針を明確にすること、相談体制を整えること、事実確認を行うこと、被害者・行為者に適正に対応すること、再発防止を行うことが重要です。
また、相談者や調査協力者のプライバシーを守り、不利益な取扱いをしないことも必要です。
なぜ懲戒規定だけでは不十分なのか
懲戒規定に、たとえば次のような記載がある会社は少なくありません。
・会社の秩序を乱したとき
・職場の風紀を乱したとき
・他の従業員に迷惑をかけたとき
・服務規律に違反したとき
このような規定だけでも、一定の場合には処分の根拠になる可能性はあります。
しかし、ハラスメント対策としては、次の点が不足しやすくなります。
・どのような行為がハラスメントに当たるのかが分かりにくい
・会社としてハラスメントを許さない方針が明確でない
・行為者に対してどのような処分があり得るのかが伝わっていない
・相談窓口や相談後の対応手順が分からない
・相談者や調査協力者への不利益な取扱いの禁止が明確でない
・従業員に周知されていない
つまり、問題は「懲戒できるかどうか」だけではありません。
会社として、ハラスメントを防止する仕組みを就業規則や社内規程に整理し、従業員に周知しておくことが重要になります。
就業規則に定めておきたいハラスメントの内容
ハラスメント対策では、少なくとも次のような内容を整理しておくことが必要です。
1. パワーハラスメント
職場におけるパワーハラスメントは、次の3つの要素をすべて満たすものとして整理されます。
・職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
・業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
・労働者の就業環境を害すること
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導まで、直ちにパワーハラスメントになるわけではありません。
そのため、会社としては、ハラスメントを防止する一方で、必要な業務指示や指導を適切に行うためのルールも整理しておくことが重要です。
2. セクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメントについては、性的な言動により労働者の就業環境が害される場合などが問題になります。
具体的には、次のような行為が該当する可能性があります。
・性的な発言や質問
・身体への不必要な接触
・性的なうわさの流布
・交際や性的関係の強要
・性的な言動を拒否したことによる不利益な取扱い
・性的な言動により就業意欲や能力発揮を妨げる行為
セクシュアルハラスメントについても、禁止される行為や懲戒処分の対象となる可能性を明確にし、従業員に周知しておくことが必要です。
3. 妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント
妊娠・出産、育児休業、介護休業などに関する制度利用を理由として、嫌がらせをしたり、制度を利用しにくい雰囲気を作ったりすることも問題になります。
たとえば、次のような言動には注意が必要です。
・育児休業を取るなら退職してほしいと言う
・妊娠した従業員に対して迷惑だと発言する
・介護休業の申出を理由に評価を下げるような発言をする
・制度利用をためらわせるような発言をする
制度利用そのものを妨げるだけでなく、制度を利用しにくい雰囲気を作ることも、職場環境の悪化につながります。
また、制度利用を理由とする解雇、降格、減給などの不利益な取扱いは、法令上問題となるため、ハラスメント防止とは別に注意が必要です。
行為者への対処方針も明確にする必要があります
ハラスメント防止では、単に「ハラスメントは禁止」と書くだけでは足りません。
次の内容も整理しておくことが重要です。
・ハラスメントを行ってはならない旨
・ハラスメントを行った者には厳正に対処する旨
・懲戒処分の対象となる可能性がある旨
・処分を判断する際の考慮要素
・相談窓口
・事実確認の流れ
・被害者への配慮措置
・行為者への措置
・再発防止策
・プライバシー保護
・相談や調査協力を理由とした不利益な取扱いの禁止
ハラスメントの行為者に対しては、会社として厳正に対処する方針を明確にし、その内容を就業規則や社内規程などに定めておくことが重要です。
規定を作成するだけでなく、従業員に周知しておくことも欠かせません。
「どの行為がどの処分になるか」を細かく書きすぎる必要はあるのか
実務上、ハラスメント行為は内容や程度がさまざまです。
そのため、就業規則に、
・この発言ならけん責
・この接触なら出勤停止
・この行為なら懲戒解雇
と、すべてを細かく書き切ることは現実的ではありません。
ただし、処分内容がまったく分からない規定では、従業員への周知として不十分になるおそれがあります。
そのため、実務上は、次のような形で整理することが考えられます。
・ハラスメント行為が懲戒事由に該当することを明記する
・処分の種類を就業規則上で明確にする
・行為の内容、程度、反復性、被害の状況、職位、職場への影響などを総合考慮する旨を定める
・必要に応じて、別規程や社内周知資料で具体例を示す
ハラスメントの内容をすべて就業規則に細かく書き込む必要はありませんが、会社として禁止する行為や、懲戒処分の対象となる可能性があることは明確にしておく必要があります。
また、就業規則に定めるだけでなく、従業員が内容を理解できるように周知しておくことも重要です。
就業規則本体とハラスメント防止規程を分ける方法もあります
ハラスメント対策の内容は、すべてを就業規則本体に細かく書き込む方法だけではありません。
実務上は、就業規則本体に基本的な禁止事項や懲戒の根拠を定めたうえで、具体的な内容をハラスメント防止規程として整理する方法もあります。
たとえば、次のように分けて整理することが考えられます。
・就業規則本体
・服務規律
・懲戒規定
・ハラスメント防止規程
・相談対応の社内ルール
・従業員向けの周知文書
特に、ハラスメントの具体例、相談窓口、相談後の対応手順、プライバシー保護、不利益な取扱いの禁止などは、別規程や社内資料で整理した方が、従業員に説明しやすい場合があります。
ただし、規程を作成するだけでは不十分です。
実際に従業員へ周知し、管理職が内容を理解し、相談があった場合に対応できる体制を整えておくことが重要です。
懲戒処分を行うときの注意点
ハラスメントがあったからといって、直ちに重い懲戒処分を行えばよいわけではありません。
懲戒処分を行う場合には、次の点を確認する必要があります。
・就業規則に懲戒事由と懲戒の種類が定められているか
・問題となる行為が懲戒事由に該当するか
・事実確認を十分に行ったか
・本人から事情を聴取し、必要な弁明の機会を確保したか
・処分内容が行為の程度に照らして重すぎないか
・同種事案とのバランスが取れているか
・被害者や相談者のプライバシーに配慮しているか
・相談や調査協力を理由とする不利益な取扱いがないか
特に、ハラスメント事案では、被害者への配慮と、行為者への適正手続の両方が必要になります。
会社として厳正に対応することは重要ですが、処分の相当性を欠くと、後日、処分の有効性が争われる可能性があります。
会社が確認すべきチェックリスト
次の項目に不安がある場合は、就業規則やハラスメント防止規程の見直しをおすすめします。
・就業規則にハラスメント禁止の規定がない
・懲戒規定はあるが、ハラスメントとの関係が分かりにくい
・パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの内容が整理されていない
・相談窓口が決まっていない
・相談後の対応手順が決まっていない
・プライバシー保護の規定がない
・相談者や調査協力者への不利益な取扱いの禁止が明記されていない
・管理職向けの周知や研修を行っていない
・過去に相談があったが、記録や対応方針が整理されていない
・懲戒処分を検討しているが、処分の重さに不安がある
まとめ
ハラスメント対策では、懲戒規定を設けることは重要です。
しかし、懲戒規定があるだけで、会社のハラスメント防止措置が十分になるわけではありません。
重要なのは、次の点です。
・ハラスメントの内容を明確にすること
・会社として禁止する方針を示すこと
・行為者へ厳正に対処する方針を明確にすること
・相談窓口と対応手順を整えること
・プライバシー保護と不利益な取扱いの禁止を定めること
・従業員に周知すること
・実際の事案では、事実確認と適正な手続を行うこと
ハラスメント対応は、就業規則の文言だけでなく、会社の実態、職場環境、相談体制、処分の相当性まで含めて確認する必要があります。
就業規則やハラスメント防止規程に不安がある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
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