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時間外労働の制限がある従業員に固定残業代は必要?減額・停止の注意点を社労士が解説

時間外労働の制限と固定残業代の取扱いについて、事業主と従業員が社会保険労務士に相談している絵本風イラスト

従業員から、

 

・育児のため、残業を制限したい
・介護のため、時間外労働を減らしたい
・所定外労働の免除を利用したい

 

という申出があった場合、会社側で迷いやすいのが固定残業代の取扱いです。

 

特に、次のような疑問が出やすいです。

・残業をさせられないなら、固定残業代は支払わなくてよいのか
・固定残業代を減額してよいのか
・固定残業代を支払っていれば、一定時間までは残業させてもよいのか
・就業規則や雇用契約書に何を書いておくべきか

 

結論からいうと、時間外労働の制限と固定残業代は、別々に整理する必要があります。

 

固定残業代を支払っているからといって、時間外労働の制限を超えて働かせることはできません。
また、残業が少なくなったからといって、当然に固定残業代を減額できるとは限りません。


1.まず「時間外労働の制限」と「所定外労働の制限」は別です

 

実務では、まず次の違いを整理する必要があります。

所定外労働の制限(残業免除)

 

・就業規則や雇用契約で定めた所定労働時間を超える労働を免除する制度
・いわゆる「残業なし」の働き方
・育児・介護について、対象要件を満たす労働者から請求されることがある制度

 

厚生労働省は、育児のための所定外労働の制限について、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が請求した場合、会社は所定外労働を免除しなければならないと説明しています。

時間外労働の制限

 

・労働基準法上の法定労働時間を超える時間外労働を、一定時間までに制限する制度

・育児の場合、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者から請求があったときは、会社は1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせてはいけません。

・介護の場合も、要介護状態にある対象家族を介護する労働者から請求があったときは、会社は1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせてはいけません。

 

つまり、会社側はまず、

 

・所定外労働の免除なのか
・時間外労働の制限なのか
・深夜業の制限なのか
・短時間勤務制度なのか

 

を分けて確認する必要があります。


2.固定残業代を払っていても、残業させ放題にはなりません

 

固定残業代とは、毎月一定額を時間外労働などの割増賃金として支払う制度です。

ただし、固定残業代を支払っているからといって、会社が自由に残業を命じられるわけではありません。

なお、固定残業代制度そのものは、労働基準法に明文で定められた制度ではありません。

そのため、通常の賃金部分と固定残業代部分を明確に区分し、固定残業代を超える割増賃金が発生した場合には差額を支払う運用が重要になります。

時間外労働をさせるには、原則として、

 

・労働基準法第36条に基づく36協定の締結
・労働基準監督署への届出
・就業規則や雇用契約上の根拠
・実際の業務上の必要性
・時間外労働の上限規制の遵守

 

が必要です。

時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情がある場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満などの上限があります。

 

そのため、固定残業代はあくまで賃金計算上の制度であり、時間外労働を命じる権限そのものではありません。


3.固定残業代は「明確に区分」されているかが重要です

 

固定残業代を適正に運用するには、少なくとも次の点を明確にしておく必要があります。

 

・通常の労働時間に対する賃金部分
・固定残業代として支払う部分
・固定残業代が何時間分に対応するのか
・時間外労働、休日労働、深夜労働のどこまで含むのか
・実際の割増賃金が固定残業代を上回った場合に差額を支払うこと

 

厚生労働省も、固定残業代について、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金に当たる部分を判別できるようにし、固定残業代が労働基準法第37条等に基づく割増賃金額を下回る場合には差額を支払う必要があると説明しています。

したがって、単に、

 

・基本給に残業代を含む
・給与には残業代込み
・残業手当相当額を含む

 

という書き方だけでは、実務上リスクが残ります。


4.時間外労働の制限中に固定残業代を減額できるか

 

ここが事業主にとって一番迷いやすい部分です。

結論としては、就業規則、賃金規程、雇用契約書の定め方によって判断が変わります。

減額・停止に注意が必要なケース

次のような場合は、固定残業代を一方的に減額・停止することは慎重に考える必要があります。

 

・固定残業代が毎月定額で支給される賃金として定着している
・減額や停止の条件が賃金規程に書かれていない
・雇用契約書に固定残業代の扱いが明確に書かれていない
・固定残業代という名称だが、実際には職務手当のように運用されている
・育児・介護制度を利用したことを理由に不利益に取り扱っているように見える

 

育児・介護休業法関係では、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限などの申出や利用を理由とする不利益取扱いは禁止されています。

 

そのため、時間外労働の制限を申し出た従業員について、理由や規程上の根拠を整理せずに固定残業代を減額すると、トラブルになる可能性があります。


5.減額できる可能性がある場合でも、規程整備が必要です

 

一方で、固定残業代が本当に時間外労働の対価として明確に設計されており、就業規則や賃金規程に支給条件が整理されている場合には、制度設計として見直しを検討できる場合があります。

ただし、その場合でも次の確認が必要です。

 

・固定残業代の支給目的が明確か
・固定残業代の対象時間が明確か
・支給しない場合、減額する場合の条件が明確か
・対象者に事前説明ができる内容か
・育児・介護制度の利用を理由とする不利益取扱いに当たらないか
・労働条件の不利益変更にならないか
・実際に働いた時間外労働分の割増賃金は正しく支払われるか

 

特に、既存従業員の賃金を下げる場合は、単なる給与計算の問題ではなく、労働条件変更の問題になります。


6.実務では「固定残業代を残すか、実績払いに変えるか」を検討する

 

時間外労働の制限がある従業員については、次のような整理が考えられます。

パターン1:固定残業代をそのまま支給する

 

・賃金を安定させやすい
・不利益取扱いの疑いが出にくい
・ただし、固定残業代の趣旨が曖昧になりやすい
・他の従業員との公平性の説明が必要になる場合がある

 

パターン2:将来分から賃金設計を見直す

 

・固定残業代を廃止し、基本給と実績残業代に分ける
・固定残業代を廃止する場合は、残業代の対価ではない職責・職務内容に応じた手当として、制度趣旨を明確に分けて再設計する
・職務内容、責任、勤務実態に応じた賃金制度に見直す

 

ただし、既存従業員については不利益変更の問題があるため、慎重な対応が必要です。

 

パターン3:新規採用者から制度を整理する

 

・雇用契約書に明確に記載する
・固定残業代の時間数、金額、差額支給を明記する
・時間外労働の制限がある場合の取扱いを事前に整理する

 

実務上は、既存従業員の制度を急に変えるよりも、まず新規採用者や次回契約更新時から整理する方が進めやすい場合があります。


7.会社が確認すべきチェックリスト

 

固定残業代と時間外労働の制限について、会社は次の点を確認しておく必要があります。

 

・36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ているか
・時間外労働の上限規制を守っているか
・育児・介護による所定外労働の制限の申出に対応できるか
・育児・介護による時間外労働の制限の申出に対応できるか
・固定残業代の金額と時間数が明確か
・固定残業代と基本給が区分されているか
・固定残業代を超えた場合の差額支給ルールがあるか
・給与明細で固定残業代がわかるようになっているか
・時間外労働の制限中の固定残業代の取扱いが規程にあるか
・制度利用者への不利益取扱いにならないか

 

このあたりが曖昧なまま運用されていると、後から未払残業代や労務トラブルにつながる可能性があります。


Q&A

 

Q1.固定残業代を払っていれば、残業させても問題ありませんか?

 

A.いいえ。固定残業代は賃金計算上の制度です。

時間外労働をさせるには、36協定、就業規則・雇用契約上の根拠、時間外労働の上限規制の確認が必要です。

 

 

Q2.時間外労働の制限を申し出た従業員の固定残業代は、すぐ減額できますか?

 

A.一律には判断できません。

賃金規程や雇用契約書の内容、固定残業代の支給目的、減額規定の有無、不利益取扱いに当たる可能性を確認する必要があります。

 

 

Q3.固定残業代を超えて残業した場合はどうなりますか?

 

A.実際の割増賃金額が固定残業代を上回る場合は、不足額を追加で支払う必要があります。

 

 

Q4.固定残業代を廃止して、実績払いに変更できますか?

 

A.検討は可能ですが、既存従業員については労働条件の不利益変更になる可能性があります。

就業規則、賃金規程、雇用契約書を確認したうえで、慎重に進める必要があります。


8.まとめ

 

時間外労働の制限がある従業員について、固定残業代をどう扱うかは、単純に「残業しないから払わなくてよい」と判断できる問題ではありません。

重要なのは、次の3点です。

 

・固定残業代の制度設計が明確か
・育児・介護などの時間外労働制限に正しく対応しているか
・従業員に不利益な取扱いにならないよう説明できるか

 

固定残業代は便利な制度に見えますが、運用を誤ると、未払残業代、労働条件の不利益変更、不利益取扱いの問題が同時に発生することがあります。

 

就業規則、賃金規程、雇用契約書、給与明細の内容をそろえて確認することが大切です。


社会保険労務士森事務所にご相談ください

 

社会保険労務士森事務所では、事業主様向けに、

 

・固定残業代制度の確認
・就業規則、賃金規程の見直し
・36協定の確認
・育児・介護休業規程の整備
・給与計算上の残業代処理の確認
・従業員への説明文書の整理

 

をサポートしています。

 

「固定残業代をこのまま続けてよいのか不安」
「時間外労働の制限を申し出た従業員の賃金をどう扱えばよいかわからない」
「就業規則と給与計算の運用が合っているか確認したい」

 

このような場合は、早めにご相談ください。


本記事は、厚生労働省の公表情報を参考に、事業主向けに実務上の確認ポイントを整理したものです。

参考情報

 

・厚生労働省:所定外労働の制限(残業免除)

・厚生労働省:時間外労働の制限

・厚生労働省:時間外労働の上限規制

・厚生労働省:固定残業代に関するQ&A

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